10.27.There Must Be an Angel



糸魚川で行われたWスタンバイ千秋楽から3日後の10月14日、
私は出張で日本を後にした。
私が向かった場所は中国の福建省の外れ、上海や北京のような大都市とは違い、
仕事が終わった後は遊びに行く場所もないような僻地である。
ここに居る間、ホテルに戻ってからの私の楽しみはひとつだけ。
それは一人トリップだ。
すぴすぴっすピスはひーとーりーじゃ すぴすぴっす何もでーきーまーせんー♪
と「ロボピッスゥー」の中で歌われていたが、
そんな私でもアレさえあれば一人トリップすることが可能である。

日本を発つ前日にやっと手に入れる事が出来た例のブツ。
チャイニーズの奴らに見つかったらとんでもないことになる。
中国はドラッグには非常に厳しい。場合によっては死刑も免れない。
そんな場所での一人トリップ。トリップし甲斐があるってもんだ。
昼間まで一緒に行動していたキムと別れた私はすぐさまホテルに戻り、
一人トリップの準備に取りかかった。
この日のために新しく買った携帯型トリップマシーン。
日本の電圧と合わせるための変圧器も忘れちゃならない。
電源を入れ、例のブツを取り出し、そのマシーンにぶち込んだ。
さあ、パーティーの始まりだ!





lonely fish(-寂しい熱帯魚-)
薬物の種類:幻覚型 中枢神経作用:興奮 精神依存性:高 


幻覚系と聞いてまず思い出されるのがLSDであろう。アシッドと言った方が馴染み深いかもしれない。
モノを変形してみせたり、時間の感覚を無くしたりするような効果がある。
精神依存症が非常に高く、ドラッグが切れると、どうしてもまた欲しくなり、なんとか手に入れようと探しまくるなど、
非常に中毒性が高い。
水槽の中をたくさんの魚が泳いでいる。その後ろに映る2人の天使。
画面は鮮やかな色合いで、魚の色も原色の青。定期的に光が点滅する。
鮮やかな色と点滅する光、その絶妙なコントラストがドラッグの効き目を加速させる。
天使達は水槽の中の魚を眺めているが、そのうち天使達自身が水槽の中の魚になったように見えてくる。
lonly fishというよりはangel fishだ。銀色に光輝く服を着て華麗に歌い踊るエンジェルフィッシュ達を眺めていると
私自身も魚になったような感覚になって来る。
お魚になったわ・た・し♪状態である。ゆらゆら睡眠、ゆらゆらトリッピンだ。



水の中に体を揺らせながらゆらゆらトリッピンしていると、2人の天使が私の前に現れた。
竜宮城のお姫様が私を迎えに来たのだ。僕はうらしま太郎なんです。玉手箱が欲しいんですぅー。
それはそれはこの世のものとは思えない、ありえない美しさである。
天使達がお互い見つめ合っている姿なんて、アップ系のドラッグ特有の精神を高ぶらせる効果が絶大だ。
「STOP!STOP!」天使達はそう囁くが、うらしま太郎となった私は止まることなんてできやしない。
水の底に体が沈んでいくのがわかる。深く深く体が沈んでいくのが分かる。
「I Can’t ねぇ!こんなに苦しいのに」なぜ気持ちいいの?教えて!ミスター・ドクター・ラブ!

苦しみと快感は紙一重。そして、うつくしさと残酷さも紙一重。
Wスタンバイ千秋楽昼公演でこのようなMCがあった。



おっきい水槽があって、その後ろでのん達が歌ってるんですけど、
その水槽の中に、



ニモがいたの!


そう!
大変だったよね!



大変だったよね!
おっきいのとおっきいのがちょちょ〜といってて、
なんかね、後ろからなんか怖い奴が襲っていってるの、




突っついてるの!




なに?じゃれてるの?って思ったら、血が出始めて
食べてたんだよね。共食い!魚の共食い!




そう。
なんか一生懸命逃げてるんだよね、その子も。




それを見ながら歌ってました。(笑)




共食いされるのを必死に避けようと血を流しながら泳ぐファインディング・ニモ。
青い魚が真っ赤な鮮血を垂れ流しながら水槽の中を泳いでいる様。
そんな残酷な場面も2人の天使がそばに居るだけで、
とてもファンタスティックで芸術的な映像に変わってしまう。
普通に見てる分には裏にこのような事実が潜んでいるなんてまったく気づかない。
笑顔で魚を見つめる2人。血を流しながら泳ぐ魚。これぞシュールレアリズム。
ねぇ、彼女達は天使なのかい?それとも悪魔なのかい?教えて!ミスター・ドクター・ラブ!









white lover(-白い色は恋人の色-)
薬物の種類:モルヒネ型 中枢神経作用:仰制 身体依存症:極高


何に一番近いかと聞かれれば、ヘロインと答えるだろう。
見れば見るほど強い陶酔感を覚え、この快感が忘れられず、乱用を繰り返すようになる。
そもそも「白い色」は音源だけでも十分ナチュラルトリップできる威力があった。
それに加えてこの驚異的な映像である。
そりゃ二郎さんも「飛びます!飛びます!」って言い続けながら死んじまうぜ!って話だ。って生きてたっけ?

ジャニスやカートの声が聞こえてくる。天国に一番近い場所がここにある。
いや、これこそが天国の真の姿なのであろう。
天国という場所がどんな場所なのか、人類は今まで色々と想像して来た。
だが、天国がどんな場所なのか本当に説明できた者など居ない。
すべては想像の域を出ていなかった。
しかし、遂に我々はリアル・ヘプンに出会うことが出来たのだ。

下界に降りて来た天使がベンチに座って楽しそうに歌を口ずさんでいる。
周りの人間の目にはその天使達の姿は映っていない。
天使の歌声も彼らには聞こえないハズなのに何故だかみんな幸せな気分になってくる。
そんな日曜日の午後。天使が舞い降りてきた場所。



この映像を見ていると今私自身が生きているのかどうかすらわからなくなってくる。
バックに映る川(海)が三途の川に思えてくるほどだ。
笑顔で人が殺せるって話を聞いたことがあるが、まさにこれ。
どんな死に方をしたい?なんて事を良く友達と話をすることがあるだろう。
「腹上死」「夜眠ったまま」「飛行機事故で一瞬に」「薬で安らかに」などなど、
人によって様々な死に方を選択すると思う。
私も今までは2番の「眠ったまま」派であったのだが、この映像を見て考えが変わった。
ここで死にたい。この笑顔で殺されたい。
こんな素敵な天使達に連れてってもらえるなら、私は迷わずこれを選ぶ。

眩い日差しに照らされて天使達が眩しそうな顔をしている場面があるが、
Wスタンバイ千秋楽昼公演でこのようなMCがあった。


これは見てもらわないとわからないんですけど、
あのねぇ、すごい晴れてる日に、外で撮ったんですけど、
まぶしいんだぁ〜!これがね。



なんか必死にライトがパッ!とあたってて
で、必死に堪えてる顔が(笑)モロうつっちゃってて(笑)
それをぜひぜひ見て欲しくはないけど、見て欲しいなぁ〜みたいな(笑)



ははは(笑)そうですね。
すっごい眩しかったんですけど、一生懸命堪えましたね。




堪えて、ちょっと白目になりそうなところを元に戻してみたいな。
危ない感じで(笑)




やばいよ、ダメだよ(笑)危ない感じじゃダメですよ(笑)
そんなことない、そんなことない。
とってもかわいらしいですよ〜(笑)




眩しい光を見つめながら白目を剥く天使達。その天使達を見つめる私もまた白目を剥く。
天使と私が白目で繋がった瞬間。
ボクサーがボディを打たれてKOされる時、地獄に落ちるような苦しみを味わうらしいが、
テンプルを打たれてKOされる場合は、白目を剥いて天国に登って行くような気分になるという。
「白い色」の効果はこれに近いだろう。
見ているうちにスカッとした気分になって、知らず知らずに白目を剥き始め、
そのまま天国へ登って行く。
人生に疲れた知り合いが居たら、ぜひこの「white lover」を勧めてあげて欲しい。
素晴らしい天国体験ができるだろう。
ただし、危ない感じに白目を剥かず、かわいらしい感じに白目を剥くことだけは注意して頂きたい。